測地線方程式とオイラー・ラグランジュ方程式

一般相対性理論についての初心者向けの記事では、曲がった空間の中で光線が取る進路について、『“まっすぐ”進む(が、その”まっすぐ”が曲がっている)』と『最短距離を結ぶ』という近しいが異なる2通りの説明がなされることが多い。

この記事の目的は、一般相対性理論における測地線方程式(ニュートン力学における運動方程式のcounterpart)の複数の導出を紹介するとともに、『測地線は”まっすぐ”な線である』と『測地線は二点の最短距離を結ぶ』の間を繋ぐ定理についても紹介することである。

先に結論を述べてしまえば、非ユークリッド空間では空間内の二点を結ぶ”まっすぐ”な線である測地線は複数存在でき、そのすべてが最短距離を結ぶわけではない。しかし、リーマン幾何学に基づけば、非ユークリッド空間でも最短距離を結ぶ線は必ず測地線(のひとつ)になる。

光や重力以外の外力を受けない物体は測地線に沿って運動するので、その経路が巨視的には必ずしも最短距離を結ぶわけではない。したがって、『測地線は二点の最短距離を結ぶ』は必ずしも正しいとは言えない。 これは、重力源の近くのSchwarzschild時空に2点を配置し、その重力源の中心とその2点が一直線上に並ぶような配置であるとき重力以外の外力を受けない物体の経路として重力源の周りを螺旋様に一周して重力源に近い方の点に移動するものと、重力源の中心方向に向かってまっすぐ落ち込むものの少なくとも2通りがありうることからもわかる(これは極小が大域的には最小にならない例である)。

──この話をきちんと取り扱うために、sm03を丸ごと費やす。

準備:全微分のベクトル的解釈

前回の記事で述べたように、任意の区間で連続な実数値関数はベクトルとして考えられる。

3章についての注釈

この記事に限らず、sm03に属する記事では数学的に厳密な書き方を行いません。 数学的に厳密な汎関数やオイラー・ラグランジュ方程式の解説がご覧になりたい方は、変分法と幾何学 新居俊作汎関数と変分法について、わかりやすく解説をご覧ください。

準備:汎関数

xxについての関数y=f(x)y=f(x)の導関数は、物理学においては簡略化のためy˙\dot{y}と書かれることも多い。

y˙=dydx=ddxf(x)\dot{y} = \frac{dy}{dx} = \frac {d}{dx} f(x)

この記事においてもこの記法を採用する。

このとき、yyy˙\dot{y}xxを引数に取る、以下のような関数IIを考える。

I=abF(x,y,y˙)(1)I = \int^{b}_{a} F(x,y,\dot{y}) \tag{1}

たとえば、2次元ユークリッド空間における点x0x_0から点x1x_1までを結ぶ曲線の長さLLを与える関数が例として挙げられる。

L=x0x11+y˙2dxL = \int^{x_1}_{x_0} \sqrt{1+{|\dot{y}|}^{2}} dx

曲線の長さを与える関数の例からもわかるように、上のIILLのような関数はf(x)f(x)の関数形によって値が変化する。 このような、関数を引数に持つ関数を汎関数と呼ぶ。

物理学的な興味としては、汎関数の積分内の関数FFは問題としている範囲について微分可能であることが望ましく、以下ではそのようなものに絞って考える。

そのような場合、(1)式でaabbを固定してf(x)f(x)を動かしていくと、IIが極小値を取るような取り方が存在する。

汎関数においては、極小値のことを停留値と呼び、そのような値を取る点を停留点と呼ぶ。もちろん、そのような点は汎関数を微分して求めるのである。

オイラー・ラグランジュ方程式の数学的意義

さて、(1)式のような汎関数IIが停留値を取るようなf(x)f(x)について考えたい。

汎関数IIにおいて、f(x)f(x)の関数形をわずかに動かすと、xxは変化せずにyyy˙\dot{y}のみが動く。

汎関数IIの停留点について、われわれはf(x)f(x)をわずかに動かした際のIIの微小変化であるδI\delta Iに関心がある。

δI=abF(x,y+δy,y˙+δy˙)dxabF(x,y,y˙)dx=abF(x,y+δy,y˙+δy˙)F(x,y,y˙)dx (2)\delta I = \int^{b}_{a} F(x,y+\delta y,\dot{y}+\delta \dot{y}) dx- \int^{b}_{a} F(x,y,\dot{y})dx\\ = \int^{b}_{a} F(x,y+\delta y,\dot{y}+\delta \dot{y}) - F(x,y,\dot{y})dx \tag{2}

F(x)F(x)yyy˙\dot{y}について1次までテイラー展開すると、

F(x,y+δy,y˙+δy˙)=F(x,y,y˙)+Fyδy+Fy˙δy˙F(x,y+\delta y,\dot{y}+\delta \dot{y}) = F(x,y,\dot{y}) + \frac{\partial F}{\partial y} \delta y + \frac{\partial F}{\partial \dot{y}} \delta \dot{y}

より、(2)式は

δI=abFyδy+Fy˙δy˙dx\delta I = \int^{b}_{a} \frac{\partial F}{\partial y} \delta y + \frac{\partial F}{\partial \dot{y}} \delta \dot{y} dx

オイラー・ラグランジュ方程式の物理学的な応用

先ほどの汎関数はxxがベクトルでそれぞれの要素に対応するyyが複数ある状況にも拡張でき、オイラー・ラグランジュ方程式も同様である。

最速降下曲線の問題から、座標系の取り方から自由な物理学が編み出された。座標は一般化座標、力は一般化力となり、座標から離れた量としてラグランジアンなるものが導入された。

ラグランジアンは、解析力学的には運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの差に一致する。

解析力学では、解析力学のラグランジアンについてのオイラー・ラグランジュ方程式が運動方程式の役割を担い、物体は外力のない状態ではオイラー・ラグランジュ方程式で導かれる軌道を運動する。

ところで、停留値というのは極小値であって、必ずしも最小値を与えるわけではないことに留意する。

そして、解析力学以外にもラグランジアンは登場する。電磁気学でのラグランジアンもあれば、一般相対性理論でのラグランジアンもある。

そして、オイラー・ラグランジュ方程式というのは一般的に汎関数の変分に関係する方程式であって、別にラグランジアン専用の方程式というわけでもない。一般相対性理論では、最初に述べた「測地線」を求めるためにオイラー・ラグランジュ方程式を用いるが、一般相対性理論でのラグランジアンとは関係なく、汎関数の変分によって導出するために用いられるのである。

「まっすぐ」と「最短」は同じ?

ここまでの話をまとめる。

オイラー・ラグランジュ方程式で求められる経路は停留点を取る距離の経路であり、それは曲がった時空の中で測地線という名の「まっすぐ」を保証する。一般相対性理論においては、光や重力以外の外力を受けない物体はその経路上を運動する。

もちろん今回のような場合では最小値は極小値のうちのひとつであるから、「2点間の最短経路は測地線で表される」という表現は正しい。

測地線と最短経路がイコールで結ばれるのは十分狭い範囲であって、巨視的に見て測地線が必ずしも最短距離であるとは限らない。

オチとしては、ユークリッド時空に慣れ親しんでいる人間にとっては「まっすぐ」と「最短距離」が同義語になってしまっているため、その2つが異なることに気が付いても無視してしまうということが挙げられると考える。

次回へ

測地線方程式にたどり着くため、まず一般相対性理論の話をする必要があるので、そのようにする。

参考文献

第2回 変分法と最小作用の原理 齊藤国靖 Wikipedia - 汎関数